やはりと言っては失礼かもしれないが、石破茂首相は総理の器ではなかったということなのだろう。当選一回の自民党衆院議員を公邸に招いた際、事前に十万円の商品券を配布していた問題で、首相は商品券の配布は反省しているが、政治資金規正法には抵触しないと弁解している。
法的問題は別としても、参院予算委員会での「ハンカチでも買ってね、お菓子でも買ってねという思い」だとの答弁には、政治とカネの問題で衆院選で大敗した責任者であることを忘れたかのような政治的センスのなさを感じ、呆れてしまった。
その結果と言うべきか、内閣支持率は大きく下げている。本稿執筆時(三月二十五日)の最新調査(共同通信)では内閣支持率は前月と比較して12・0ポイント下落して27・6%に急落、内閣発足以来で最低となった。一方で不支持は57・8%に増えた。
これに対して、立憲民主党の野田佳彦代表は「徹底して説明を求める。内閣不信任案提出や退陣は、私は簡単に求めない」と語っている。つまり、七月の参議院選挙は支持率の低い石破首相を相手に戦いたいという異例の続投要求とも言える。石破首相は完全に足元を見られていると言えよう。
野党だけならまだしも、海外からも足元を見られている。三月二十二日の日中ハイレベル経済対話では、福島原発の処理水排出を巡って中国が日本産水産物の輸入を停止している問題で、日本側は輸入再開を求めたが、結局、再開は約束されなかった。
中国当局による邦人拘束や、尖閣諸島での中国公船による領海侵入についても提起はしたが、回答は得られなかった。逆に王毅外相は「戦後八十年の節目」を強調し「歴史に対する反省」を要求したという。そればかりか、この経済対話と示し合わせたかのように、前日の二十一日未明から海警船が尖閣領海に侵入し、その後も領海内にとどまっているという。これが尖閣問題提起への中国側の回答だと言わんばかりである。
外務省は石破首相と王毅外相の面会について、中国側が首相は「中国が詳述した立場を尊重する」と述べたと発表したが、外務省は「そのような事実はない」とホームページ上の記述の削除を求めた。それに対して、中国外務省の報道官は「お互いの立場を尊重するのが当然だ」と、記述の削除に応じない姿勢を示した。石破政権は中国からも完全に足元を見られていると言えよう。
アメリカについても、追加関税問題で日本は例外扱いとならないらしい。最初のトランプ政権の際、トランプ氏は「安倍さんには貿易交渉で譲りすぎたかもしれない」と言ったというが、先行きの見えない石破政権の足元を見て特別扱いはないというのだろう。石破首相のままでは日本はますます不利な立場に追い込まれ国益を損なってしまうと言えよう。
国際政治の焦点となっているウクライナ問題の結末は他人事ではない。中国の台湾戦略に影響するからだ。もし台湾有事となれば先島諸島が戦域に入ることに加えて、エネルギー、食料の輸入が途絶える危険をはらむ経済安保、食料安保に関わる大問題となるが、石破政権からそんな危機意識は感じられない。岩屋外相はこう言っている。
「私たちがやらなければならないのは、台湾有事、台湾有事と言って危機感を煽ることではなく、台湾が『無事』であるための外交を展開することです」と。
石破首相では七月の参議院選挙は戦えないとの声はあるが、自民党内の「石破おろし」の声はまだ小さい。嵐の前の静けさだと信じたいが、このまま何も動きがないと、野党だけでなく米・中からも足元を見られ国益を損ない続けることとなる。(日本政策研究センター所長 岡田邦宏)
〈『明日への選択』令和7年4月号〉